複数の漢方薬を同時に飲むことと1種類だけ飲むことは、どちらがよいのか?
うちの患者さんの中には、実は医者や看護師さんなんかもいらっしゃいます。
そんな患者さんの中で、この間、看護師さんがこんなことを言っておられました。
『病院の治療のことを治療って呼ぶのには違和感がある』と。
このままだと意味がわからないですね。
どういうことかというと、『治療というのは体を治すことだと思うけど、病院の薬は実質、症状を一時的にゴマカシているだけだから、治していることにはならない』だから、『治療』というのとはちょっと違うのでは?ということです。
『症状や病気が再発しても、とにかく一時的にでも症状が抑えられたらいい』という人もいらっしゃると思うので、ある種、『治る』をどう考えるか?で人によって捉え方が変わってくるかもしれないですが、少なくとも病院の治療はわかりやすく言えば『病気の再発が前提の治療』です。
すごいなと思ったのが、この方、まだ十代なのです。
僕なんか十代の時なんか、病院やら、医者やらなんて、よく分かってなかったので、一般の人と同じように『病院に行けば治してもらえるもの』なんて無知にお気楽に思っていました。
この時は、まだ、死にかけても骨折しても病院は治すテクニックすら実は持っていないということを自分の体で体験するとは思ってもいませんでした。
なんだタイトルと関係ないじゃないかと思われうかもしれませんが、この話も関係してきます。
複数の漢方薬を飲むのは間違ってない?
時々、漢方薬を複数、処方している医者がいます。
あれって、良いのでしょうか?
答えは、間違いでもないし、正解でもありません。
患者さんに複数の漢方薬を処方された時の様子を詳しく聞いてみると、当然ですが、体質を分析するための問診や質問はありません。
マニュアル大好きの医者安定の病名や症状だけで処方するという、東洋医学をスルーした西洋医学風のマニュアルを見ての漢方薬の選び方です。
最初から体質やら東洋医学理論はオールスルーなので、しょうがないのですが、朝、昼、晩とそれぞれ、3種類の違う種類の漢方薬を飲ませたり、3、4種類の漢方薬を全部一度に一緒に飲ませるなどというデタラメな荒技を行なっています。
実は、こういった飲み方をする場合もあります。
でも、その場合、かなり深い体質診断が必要です。
一度に複数の漢方薬を処方する医者は、自分が漢方専門っぽいと勘違いしているところに多いです。
体質は判断できないけど、漢方薬の名前だけは知ってるねん!みたいな人です。
まー頭はアレでも暗記力はいいでしょうね。
で、何で複数の漢方薬を処方するかというと、多分、1つの症状に対して1つの漢方薬を選んだりするから、漢方薬の種類がいっぱいになっているのだと思います。
漢方薬は症状を抑えることが目的ではない
病院の薬は、基本は1つの症状に対して1つの薬が症状を抑えるようにできています。
だから、この西洋医学の考えで東洋医学の漢方薬を処方しているのでしょう。
漢方薬は1つの処方の中身を見てみると、一番少ないもので1種類、多いもので30種類位の生薬で構成されていて、生薬はそれぞれに効果があります。
生薬それぞれに違った働きがあるのですが、それらが合わさったり、連携しあって、病的な体質である『証』を治すのです。
この時に勘違いしてはいけないのは、『症状1つずつに対して生薬が対応して治していくわけではない』ということ。
西洋医学の薬の目的は『症状自体を一時的になくして誤魔化すこと』ですが、漢方薬は症状を抑える目的では使いません。
病的な体質である『証』 が漢方薬で調整されることによって、結果的に症状がなくなるのです。
だから、漢方薬の場合は、病院の薬と違って治ってしまうと漢方薬をやめても症状は再発しません。
漢方薬は体質(証)を治療する
1種類の漢方薬は、何種類かの病的体質を治します。症状ではないですよ。
病気になっている体質というのは、何種類かの『証』というパーツで成り立っているのです。
漢方薬は、複数の生薬にそれぞれ違った効果があるので、何種類もの証を同時に治療できます。
例えば、脾虚の証という胃腸がよくない状態と水滞症という水の滞りがある証、気の上衝の証という気が肩から上に滞っているという3つの病的状態を1種類の漢方薬で一度に治療します。
この時に、人の体質というのは、本当に人それぞれなので、体質によっては、1種類の漢方薬では治せないことがあります。
証とはとても複雑なんですね。
そうなると、違う漢方薬を合わせることがあります。
そう、漢方薬は症状ごとに複数、増やすのではなく、『体質によっては増やすこともある』ということですね。
だから、漢方薬を選ぶ前に東洋医学的な体質(証)を診断しておかないと、何の漢方薬を飲めばいいのかすらわかりません。
漢方薬の効果の性質
漢方薬の性質として、生薬数が減れば減るほど、効果が鋭くなるというものがあります。
1種類の生薬だけというのは、最も効果が鋭い状態です。
これは超専門特化の治療です。
病的な体質である『証』は何種類かありますが、生薬1種類だけの漢方薬だと、それこそ何か1つの症状か、1つの要素しか治せません。
逆に漢方薬に含まれる生薬数が多くなってくると、体内のいろいろな方面の状態を治してくれます。
これは生薬数に限らず、漢方薬の種類を増やすことも同じです。
漢方薬の種類が増えれば、それだけ、いろいろな状態(証)を治せます。
となると飲む、漢方薬の種類が増えれば、何でも治せそうですね。
ところがそれが違うのです!
漢方は常にバランスです。
生薬の種類が増えたり、一度に飲む漢方薬が増えるということは、生薬同士や漢方薬同士で邪魔する確率も増えるということ。
それと、いろいろな方面を治せる場合、1つ1つの効果は薄まるのです。
専門ではなくなるので、たくさん治せるようになるほど、どの部分も効果が弱くなります。
例えば工具の超のつく専門店では日本で手にはいらないような工具もあります。
ところが、これがホームセンターなどになると一般的に使う工具になってきます。
専門の工具(その人独自の体質)が必要な人にとっては一般的な工具は何の役にも立ちません。
また漢方薬の種類を増やしたからといって、効果が高くなるどころか、余計に副作用の確率が上がる場合もあるのです。
つまり、漢方薬は西洋医学とは違いますので、どこまでいってもバランスを考えることが治療を成功させるポイントです。
なので、複数の種類の漢方薬を一度に飲むことは間違いでも正解でもありません。
あなたの体質が専門特化して治す必要があれば、1種類の漢方薬のみを飲んだほうが良いし、浅く時間がかかったとしても一度にいろいろ治さないと治療が進まないのであれば、複数の漢方薬を飲むのが良いのです。
全ては現在のあなたの体質(証)が答えです。
ちなみに初回から複数の漢方薬にすると、どれがどんな風に効いているのかわからなくなるので、まずは『1種類の漢方薬を厳選して選んで飲む』というのが漢方治療の基本中の基本ではあります。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ 漢方概論:創元社
◯ 漢方方意ノート:創元社
◯ 漢方臨床ノート(論考編):創元社
◯ 金匱要略ハンドブック:医道の日本社
◯ 傷寒論ハンドブック:医道の日本社
◯ 素問:たにぐち書店
◯ 漢方治療の方証吟味:創元社
◯ 中医診断学ノート:東洋学術出版社
◯ 図説東洋医学:学研
◯ 中国医学の秘密:講談社
◯ 陰陽五行説:薬業時報社
◯ まんが漢方入門:医道の日本社