問診時の「症状があるか?ないか?」では漢方薬は決められない
こんな記事がありました。
利用者の半数が受診をやめた AIチャット・ドクター 医療費抑制の切り札になるか
イギリスの話で、AIのチャットボットに相談すれば、最適な治療を教えてくれるという話。
このアプリは4万人が使っているようですが、アプリを使い始めた半数の人が病院の予約をとりやめたそうです。
最近はイギリスに限らず、中国でもAIが医療相談するというケースが増えてきています。
AIに診断ができるのか?
結論からいえば、西洋医学であれば、AIで十分可能だと思います。
こういったAI診断に対して医師たちは、「症状や検査結果などから単純に薬を選ぶわけではない」と言います。
では、現実の診察を思い浮かべてみてください。
ほとんど書くところのない問診に、ちょこちょこと書いて、2、3分、しゃべるだけ。
現状の医者の治療の様子をみていると、もしかしたら、AIの方が優秀かもしれません。
だって、西洋医学の投薬は、ある症状があるか?ないか?で決定しているのですから。
かゆければ、ステロイド。
痛ければ、鎮痛剤。
単純に症状に合わせるだけ。あとは、症状が強ければ、薬の強さだけ変えるだけ。
理屈的に説明させると、医者はなんやかんやと言いますが、現場で実際にやってることは実に単純なんですよね。
1つの症状に対して、1つの薬。あとは効果が強めとか弱めとか。
ある種、AIのもっとも得意とするところですね。
医者は漢方も同じ考えで処方している
医者は漢方でも同じことをやっています。
漢方薬の本に書いてある症状をあてはめていって選ぶのですね。
あっ!というか、ほとんどの医者は、そのレベルにすら達していません。
ほとんどの医者はマニュアルの病名の項目に書いてある漢方薬をみて右から左へと処方するだけでした。
当たり前の話なのですが、漢方薬は症状を抑える目的のものではありませんので、症状自体があるか?ないか?では考えません。
ましてや西洋医学の病名なんて何の関係もないです。
ある漢方薬が合うタイプの病気や症状というものが書いてありますが、あれは、書いてある症状を治す効果という意味ではありません。
漢方薬は症状が当てはまるかどうかで選ぶわけではないのです。
漢方薬は症状だけを当てはめて選ばない
漢方薬を病名で選ぶというのは、あまりに愚かすぎる方法なので、ここでは触れません。
昔、自分の症状をチェックしていったら、自分に合った漢方薬が選ばれる。という今のAiもどきなプログラムを作ったことがあります。
おもしろいことに、そのプログラムを使ってみると、大体、同じ漢方薬ばかりが選ばれるのですね。
なぜでしょうか?
それは、漢方薬を選ぶ際に必要な症状といったって、実は漢方薬に書いてある症状は、どれも似通っているからです。
症状があるか?ないか?(症状オンオフ)だけで選ぼうとすると、同じような漢方薬しか、選ばれないのですね。
症状はあるか?ないか?だけではない
漢方薬を選ぶために書いてある症状は、その症状が当てはまるかどうかを聞いているのではなく、その症状を元にどんな体質なのか?、その病気がどんな原因なのか?を調べるためのものなのです。
症状には、いろいろな強さがあります。
頭痛でも何もできないくらいの痛みもあれば、我慢しながら、仕事ができるものもあります。
これをテキスト上にすると「頭痛はありますか?」としかなりません。
「冷え」も夏も冬も年中冷える人もいたり、冬だけしか冷えない人、寝る時に冷えが気になって眠れなかったり、眠る時に気になるほどではない人もいます。
これもテキスト上にすると「冷えますか?」としかなりません。
でも、これが個人差!
人、それぞれ違った体質なのです
漢方薬は「体質」を分析して証に合わせて選びます
漢方薬は、人それぞれの体質に合わせて選びます。
これは、症状別に選ぶわけではありません。
さっきのプログラムのように症状別だけだったら、いつも同じ種類の漢方薬になるわけです。
なぜ、体質別に選ぶかというと、効果が微妙に違うからです。
微妙というのは、さっきの頭痛や冷えの症状でも、いろいろなレベルの頭痛や冷えがあるように、漢方薬も効果の微妙な違いあるのです。
例えば、冷えは温めることで治しますが、何段階も温めるランクがあります。
また、冷えは、水が滞って起こっていたり、血が滞って起こっていたり、自律神経の乱れで体温調整がうまくいかなかったり、水も血も自律神経も全部、悪かったりと人、それぞれ、いろいろな冷えがあって、いろいろな治し方をしないといけません。
そのいろいろな効果を組み合わさったものが、様々な種類の漢方薬なのです。
頭痛だから五苓散とか、冷えるから真附湯なんて、そんな単純な理屈ではないのですね。
漢方薬を選ぶ際に調べないといけない症状は、全身の症状をみて、それぞれの症状の強さをみて、症状と症状の関連をみて、それらを総合的に分析して、病気の原因である『証』を導き出し、その証を調整し直せる漢方薬を選ぶのですね。
西洋医学のような感覚で『症状があるか?ないか?』だけで人間の体をみていたら、百年、勉強したって、漢方薬を効果的に効かせることはできないと思います。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会