オーダーメイドの漢方薬の危険性
漢方薬は、一人一人の体質に合わせるので、いちから調合するものと思われていたりします。
そんな漢方薬のイメージから、病院などで処方されるようなパッケージの漢方薬は、『調合していないもの=体質に合わせていない既製品』みたいに思われていたりします。
うちにも、よく「いちから、私の体質に合わせて漢方薬を調合してくれるのですか?」と質問があります。
恐らく、「いちから調合するのであれば、自分だけのオリジナルのものだから、すごく体質に合ってそう!」という感覚があるのでしょう。
言葉遊びみたいになってしまうかもしれませんが、この捉え方って実は間違っているのです。
調合した漢方薬も既製品も一緒のもの
既製品の漢方薬は体質に合わせていないものではありません。
そして大半の漢方薬を処方している先生は一から調合することなんてあり得ません。
例えば、煎じ薬を処方する際は何種類かの生薬を組み合わせます。
これって、いかにも一から調合した感じですよね。
しかし、これは、みなさんが既製品だと思っている漢方薬のレシピ通りに組み合わせているだけなのです。
オリジナルな調合っぽいですが、処方内容は、その先生のオリジナルでもなんでもありません。
医薬品の法律的にも漢方理論の基本的にも、漢方薬は煎じ薬であっても、ほぼ既製品と同じように作らないといけないようになっています。
オリジナルな漢方薬とは?
ある基本処方に、いつくかの生薬を加えたりすることを加減というのですが、これはその人の体質に合わせて調合していると言えるかもしれません。
しかしこれだって、8割から9割は既製品の基本の漢方薬がベースになっています。
90%は既製品です。
基本の漢方薬と漢方薬を組み合わせる、合方という方法もあります。
これも調合っぽいですね。
これもやっぱり全くのオリジナルではありません。
基本的な処方と基本的な処方を組み合わせてるだけなのですね。
つまり、ベースになっているのは既製品と同じ漢方薬なんですね。
中国本土だと中医学といって本来の漢方とはちょっと違う漢方理論なので、ツワモノになると一から調合します。
しかし日本でいちから作る人なんてまずいないです。
「な〜んだ、体質に合わせるといっても既製品なのか…」とちょっとガッカリしました?
でもみんなが勘違いしているのは、既製品にこそ『漢方薬の良さ』があるのです。
規制の漢方薬だけで数百種類を越える
基本的処方の漢方薬の方が治療には断然いいです。
むしろ、一から調合してもらった漢方薬なんてリスクだらけです。
よほどその先生に対して信用がない限り、飲まない方がいいです。
漢方薬は西洋医学と違って、あらかじめ効能効果が決まっていません。
同じ種類の漢方薬でも、合わせる体質によって効能効果が変わっちゃったりするのです。
例えば、風邪に使う葛根湯の風邪の時の作用と急性の下痢に使うときの作用。
同じ葛根湯なのに、使う病気によって効果の考え方が変わるのです。
これは西洋医学にはあり得えないルールです。
『基本的な処方の漢方薬は効果が決まっている』ということではないのですね。
基本的な処方の漢方薬といっても、さっきの合方などを含めれば500種類以上あります。
漢方薬は体質に合わせるものなので、体質=漢方薬ですから、500種類以上の体質のパターンに対応するようにできているということですね。
既製品の基本処方群だけでこれだけのパターンです。
それに漢方薬は1ヶ月飲んだら効果が現れるとは限りません。
漢方薬の効果が表れる日数は人それぞれ。
ある漢方薬は4ヶ月飲まないといけないのかもしれないし、初めから体質に合っていなければ、何年飲んだって効かないのかもしれない。
となると、500種類を試していくだけで膨大な年数が必要になりますね。
漢方の世界では基本的な処方の漢方薬だけでも手に負えないくらいの種類があるのです。
オーダーメイドの漢方薬は危険!?
そして、ここからが肝心。
漢方治療は経験医学です。
効能効果は決まっていないのです。
『体質と漢方薬の組み合わせ』によって効果が変わります。
また、ある漢方薬が体質と合っているかどうかは、飲み終わった後の体の変化で初めて確認できます。
漢方の世界では、「この漢方薬はこういった効果のはずだから効くはずなのに…」は通用しません。
飲んだ人が『効果』を感じないのあれば、単純に『体質と合っていない』のです。
体質と合っていなければ、違う種類の漢方薬に変更しないといけません。
まだ何百種類とありますから。
せっかく、オーダーメイドでいちから調合しても、効かなければ、あっさり、その漢方薬をやめて次の漢方薬を検討する必要があります。
この時にどうやって体質と効果を考えてゆけばよいのでしょうか?
昔からある漢方薬は治療データが豊富。オリジナルに治療データはないに等しい
基本的な処方の漢方薬には2千年間の治療データがあるのです。
2千年間、いろいろな先生がうまく使って治したり、『とんでもない副作用で逆に漢方薬で病気にしちゃったり』してきたのです。
うまくいかなくても、『うまくいかなかったなりのデータ』が、その2千年の治療データの中に眠っているのです。
僕ら漢方家は、そんな2千年間のデータを勉強して掘り起すことによって、漢方薬と体質をどんな風に合わせていけばよいのかを検討していくことができるのですね。
逆に、いちから調合したものはそういった何千年の経験が一切、ありません。
たかだか、調合した先生の乏しい何年かの経験、もしくはその先生の単なる思い込み。
本当によい処方なのかどうかも未知数。
危険度も未知数。
だって、そんないちから調合された処方を何百年、何千年と検証してきたのが、基本的な処方の漢方薬なんですから。
全くオリジナルの創作料理だと、おいしくなるとは限りませんよね。
でも昔からレシピにある料理の味を研ぎ澄ませていくことの方が、大抵うまくいくのです。
背景にある医療データが段違いです。
普通に考えれば、どっちを使う方がいいのか一目瞭然!
いちからの調合は僕も憧れますが、一方で漢方の先生のただの奢りや傲慢さ、自己満足なような気もします。
まずは何百種類ある漢方薬を本当に使いこなせるように研究することが必要です。
(この勉強だけで一生かけても時間が足りません)
それを全部、体得してから、次の段階にいくべきです。
漢方の名医ほどそうしています。
料理のできない人が、食べたことのない創作料理に手を出しても、マズいものしかできません。
『あなたの体質に合わせて調合するオーダーメイドの漢方薬』
ひびきはいいですが、漢方の勉強を放棄した先生の逃げでしかないし、患者さんも損しかありません。
なので、漢方薬は調合するというよりも、体質を分析し、その体質に合った漢方薬を探しだすという感じの方が治療効果は遥かに高いです。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ 図説東洋医学(基礎編):学研
◯ 図説東洋医学(湯液編Ⅰ):学研
◯ 図説東洋医学(湯液編Ⅱ):学研
◯ 漢方概論:創元社
◯ 漢方臨床ノート(論考編):創元社
◯ 漢方方意ノート:丸善
◯ やさしい中医学入門:東洋学術出版社
◯ 中医診断学ノート:東洋学術出版社
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ まんが漢方入門:医道の日本社