いちご(苺)の漢方的効能効果
タイトルに苺(いちご)の効能効果と書きましたが、ひと昔前のテレビに良くあるような「苺にはビタミンCが多くて…」などの体に良さそうな成分の話ではありません。
漢方医学的には『中の成分が体に良いのかどうか』では考えません。
漢方では漢方独特の食べ物の効能効果の考え方があります。
食べ物の漢方的効果ってどういうこと?
漢方では、その食べ物は「体を冷やす性質なのか?」「体を温める性質なのか?」「血や水や気を下げる性質なのか?」と体にどんな影響があるのか?を考えます。
「◯◯の効果がある」というような、どんな人の体質にも良い効果というのもは漢方にはありません。
例えば、その食べ物が「寒」という性質を持っているなら、体が冷えやすい『寒証』の人にとっては、冷えている体にさらに食べ物の冷やす効果で冷やすので、当然、食べ過ぎると体調は悪くなります。
食べ物が「寒」の食性の場合は、体に余分な熱を持っている『熱証』の人は、いちごが体を冷やしてくれるので、こういった体質の人にとっては薬になります。
自分の今の体質と食べ物の食性によって、『毒にも薬』にもなるということです。
それでは、漢方的な効果を説明します。
いちごの漢方的効果
いちごの持っている性質(効果)です。
【寒熱】
寒熱というのは、体を温めるか、冷やすかという働きですが、いちごは『寒』の性質ですので、寒証とよばれる体が冷えやすい体質の人は、食べ過ぎると毒になります。
体に余分な熱がこもりやすい『熱証』の人は、いちごが体を冷やしてくれるので、薬になります。
【昇降】
昇降とは、「気」や「血」、「水」、「熱」などを体の上へと昇らせるのか、降ろすのかといった性質です。
いちごは、『降』といって、気や血、水、熱を下げる性質があります。
「気」が下半身に落ちて、体調がおかしくなる『気陥の証』という体質の人や、水が下半身にたまる『下焦の水滞の証』の人にとっては、毒になります。
逆に気や熱が、肩から上に上がってしまっている『気の上衝』『上衝の熱証』の体質の人は、良い薬となります。
【潤燥】
体を潤すか、乾燥させるかといった性質のことです。
潤すというと、女性などは「肌が潤う」と思うかもしれないですが、肌だけに対する効果ではないので、例えば、花粉症だと、より水鼻がひどくなります。
いちごは『潤』といって、皮膚や体内の水を補充してくれます。
水の巡りが滞る、『水滞証』の人は潤の効果によって、より水がたまることになり、水の巡りも悪くなります。
体がカサカサで乾燥する『燥』の人は潤され、水が補充されるので良い薬となります。
【臓腑】
臓腑とは、内臓のどこに効くのか?といったもので、いちごは、『肺』『胃』『肝』の臓器に働きかけます。
【五味】
「味がどんなものか?」です。
いちごは『甘、酸』です。
おいしいか、まずいかといった話ではなく、甘い味は、気や筋肉を緩める効果があります。
酸は、『肝の臓』に良い薬となります。
特に周りの気が強くなる春の肝の臓の助けになります。
【毒性】
毒性があるかどうかです。
例えば、にんにくは『小毒』というカテゴリーになります。
ちなみに漢方的には、『自分の体質と合っていない毒性(冷え性の人に冷やす食べ物など)』と『食べ物自体が最初から持っている毒性』の2つの毒性を考える必要があります。
いちごの漢方的な応用効果
食性が効果となりますが、その食べ物独自の応用的な効果もあります。
- 喉の渇きなどを潤す
『生津止渇』という効果があります。
- 肝の臓にこもった余分な熱をとる
『清肝熱除煩』という効果があります。
- 余分な水をオシッコとして出す
『利尿』の効果があります。
西洋医学的な成分の効果
いちごにはビタミンCが多く含まれ、血管と粘膜を丈夫にしたりします。
そのほか、カリウムが多く含まれ、余分な塩分を出して、血圧を下げます。
葉酸が含まれ、血を作り出すことに関わります。
これらの効果は。良い効果というよりは、体の活動に必要な成分で、「摂ればいい」というものではなく、他の成分とのバランスをとりながら働くものなので、本来は、不足してもよくないし、多すぎてもダメです。
漢方では「食べ物の効果」と「漢方薬の効果」は同じ
いちごの食性からいくと、風邪で熱っぽく喉が痛いときは、いちごは冷やす性質で余分な熱を鎮めますので、役立ちます。
この時に下痢になっていると、いちごは、水を溜める性質もあるので、食べたほうがよいのかを考える必要があります。
実は『漢方薬の効果』は、食べ物と差がありません。
基本的な効能効果の考え方は、同じです。
ちなみに薬膳は、『生薬を使っていたら薬膳っぽいっ!』というようなものではなく、季節と、その人の今の体質を分析して、『食べ物の性質と体質が合う食材を選んで料理したもの』のことを言います。
漢方薬は、何種類かの生薬(例えば葛根湯なら7種類の生薬)でつくられていますが、その生薬の1つ1つには、今回のいちごのように【寒熱】【昇降】【収散】【潤燥】【臓腑】
【五味】【毒性】とうい性質(効果)に加えて【気・血・水】に働きかける性質(効果)があります。
それに加えて【応用効果】があります。
生薬1つで9つの性質(効果)があり、葛根湯なら、生薬が8種類、組み合わさるので、いろいろな性質(効果)が72種類あることになりますので、漢方薬は食べ物と同じ効果の考え方ではありますが、より複雑になります。
そして、その72種類が、組み合わさって、病気になっている体質を調整します。
72人の個性を持った選手(生薬の効果)がいて、それぞれのポジションの役割(生薬と生薬の組み合わせ)があって、チーム全体の特色(漢方薬)があるといった感じですね。
ですので、まともに漢方のことを勉強していれば、『アトピーに十味敗毒湯』とか、『月経痛に当帰芍薬散』なんて体質を分析しないマニュアル的に選ぶ方法なんて、漢方の医学理論的にありえないわけです。
それが、「いちご」からでもわかります。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯平成薬証論:メディカルユーコン
◯東方栄養新書:メディカルユーコン
◯漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯中医処方解説:神戸中医学研究会
◯漢方方意辞典:緑書房