当帰芍薬散の本来の効果と副作用
病院ではツムラの23番としてよく出されている当帰芍薬散。
ネットなどを調べてみると「当帰芍薬散が更年期に効く」とかひどいのになると「嗅覚障害」に効くかのように書かれていたり、男性にも使うかのように書かれていて、デタラメもここまでくると清々しいなと思います。
そもそも、漢方薬は、更年期に効くとか、嗅覚障害に効くとか、何か特定の病名や症状に効くようにできていません。
そこで当帰芍薬散は実際は『どんな病気や症状に効果があるのか?』を解説したいと思います。
『病院の薬』は、薬を作る際にネズミやウサギを使って、その薬には「どんな効果があって」「その効果にはどんな有効成分が関係していて」ということが研究によってわかりますので、薬の効果や成分の説明ができますが、漢方薬はあなたが理解できそうな西洋医学的な効果や成分が存在しません。
そもそも漢方と西洋医学とは、本来は何の関係もなく『治療や薬の効果の考え方自体』が根本から違うのです。
ツムラなどの保険適応の漢方薬メーカーが提供している医者の使うマニュアルには当帰芍薬散の効果が次のように書かれています。
『ホルモンに対する作用』『血液流動性に対する作用』
「何これ?」という感じですね。
仮にこれが病院の薬の効果の根拠だった場合、どのホルモンに当帰芍薬散の『どんな成分』が『どのように効いたのか』が、ハッキリとわからなければ、薬として成り立ちません。
これだけでは『ちょっと聞いて!当帰芍薬散を飲んだらホルモンに効いた感じがするわ!』という、何もかもざっくりしている近所のおばちゃんがおすすめする怪しいサプリの口コミと変わらないわけです。
では『当帰芍薬散には効果がないのか?』というと、そうではありません。
漢方で当帰芍薬散の効果というのは『当帰芍薬散の条件が合う体質の人』ということになります。
何を言っているのかわからないと思うので、今から詳しく説明します。
当帰芍薬散の効果とは当帰芍薬散的な体質のこと
実は当帰芍薬散の効果の考え方は、漢方の治療派閥によって異なってきます。
大きくは『日本漢方』と『中医学』によって効果の考え方が変わってきます。
同じ当帰芍薬散なのに、派閥によって効果も合わせるタイプも変わってくるのです。
まずは日本漢方が考える当帰芍薬散の効果から。
日本漢方では方証相対といって、『当帰芍薬散的な体質の人』は『当帰芍薬散で治る』ということになります。
つまり、本来の漢方では、どんな効果があるのか?を考えるのではなく「当帰芍薬散が合いますよ」と言われている「条件」に「あなたの全身の状態」が合うかどうか?が、重要になります。
『当帰芍薬散の合う体全体の条件=当帰芍薬散の効果』なんですね。
なので、当帰芍薬散の効果を知りたい場合、『自分の体質が当帰芍薬散の条件に合うかどうか』を考えれば、効果を知ることができます。
日本漢方が考える当帰芍薬散が合う体質の条件とは…
【病位】太陰病、虚証。
【脈侯】沈・遅・弱・軟弱・細小。
【舌侯】淡白舌・湿潤して無苔。
【腹侯】腹力やや軟で、下腹部の硬満と上腹部に振水音があり、しばしば臍の上悸がみられる。下腹部は冷たい。
【証】血虚の証、瘀血の証、水毒の証、虚証、瘀血と水毒による精神症状の証。
何が書いてあるのか、全然わからないですよね。
まるで呪文です。
でも、これが「あなたの体が、この状態であれば、当帰芍薬散が合います」という当帰芍薬散で治せる、体質の条件となります。
そして『当帰芍薬散の合う体の条件=当帰芍薬散の効果』となるわけですね。
だから当帰芍薬散を処方された際にネットなどで、効果自体を確認したり、どんな病気や症状に効くかを調べても意味がありません。
自分自身の体が上記のような当帰芍薬散に合う条件なのか?を全部チェックする必要があります。
またネットなどでは、当帰芍薬散の条件の症状が書かれていて、それを治してくれると勘違いされていますが、あれは自覚症状から原因を分類していく際の情報にしかすぎないので、その症状を治すという意味ではありません。
【脈侯】と【舌侯】に関しては、その条件にあてはまるかどうかを触ってみるしかなく、かなり東洋医学の知識が必要となるので、今回は割愛します。
ここでは効果として重要な【病位】と【証】を紹介します。
当帰芍薬散の効果(日本漢方)
病位とは、病気が発生してからどれくらいの時間が経過しているかの時間軸を示しています。
極端に言えば、風邪で使う漢方薬は、何ヶ月も前から患ってる病気では使わないので、病気の時間軸は非常に重要になってきます。
当帰芍薬散の病位は、太陰病となっていて、これは5つある時間軸の3番目になるので、結構、時間が経っている病気に使うという条件になっています。
つまり、『日本漢方的には嗅覚障害なんかで使うわけがない』のです。
何ヶ月も前からその病気や症状を患っている人に使います。
次に、虚証とあります。
これは、体が弱いことを示しています。
少なくとも、普段、スポーツが得意で元気なタイプの人には合いません。
次に『証』は全身の症状や体の状態から判断していきます。
証とは、その人の病的な体の状態や症状の原因とも言えるもので、体がその状態であれば、当帰芍薬散が効果を発揮するということになります。
それでは解説します。
【血虚の証】血が不足している状態です。貧血も含まれますが、貧血とは違います。
血はエネルギー源ですので、使用する血と作られる血のバランスが合っていない状態のことになります。
手足の冷え、体が寒い、顔色が白い、お腹が張る、経血が少ない、腹痛、オリモノが多いなどの症状が現れます。
効果は血を増やすことですが、鉄やフェリチンを足すという効果ではありません。
【瘀血の証】血の巡りが悪い状態です。
漢方では、血の巡りの悪い状態は、大きく2つあります。
当帰芍薬散が治せる血の巡りの悪さの原因は冷えて血の巡りが悪くなっている状態です。
反対に血が不要な熱を帯びて血の巡りが悪くなっている状態もあります。
どちらも足が冷えていたりするので、全身の症状をチェックして、冷えによる冷えか、熱による冷えかを分析する必要があります。
手足の冷え、不正出血、めまい、頭痛などが現れます。
効果は、温めて血を巡らせることです。
【水毒の証】体の水の巡りに偏りができて巡りが悪くなっている状態です。
水の巡り自体がドロドロしているということではなく、体の中の水の分布に偏りができている状態です。
特に腸や下半身に水に偏りができてしまっています。
胃の水のような音、動悸、むくみ、腰痛、腰の冷え、足の冷え、筋肉痛、関節痛、オシッコが多い、オシッコが少ない、下痢、便秘が現れます。
効果は、水の巡りを促して、体の中の水の偏りをなくすことです。
【虚証】体力がなく疲れやすい状態です。
無気力や疲労、肌がブヨブヨしているなどのタイプです。
こういった方の疲れを補助して体力の回復を助ける効果があります。
ここで話している症状は単なる例です。
これらの症状があてはまるかどうかではなく、これらの症状が何の証なのかを分析します。
そもそも、これらの症状だと、全部が当てはまらないでしょうし、反対にどれかの症状があてはまったらいいのであれば、漢方薬がどれもこんな感じで症状が書いてあるので、どの漢方薬を選んでも一緒のことになります。
例えば、足の冷えは、冷えて血の巡りが悪いのか、熱がこもって血の巡りが悪いのかを判断する必要がありますが、他の全身の症状との組み合わせや関連などを合わせて考えてながら、答えを導き出します。
「足が冷える=当帰芍薬散が効く」わけではありません。
人によっては、この他の症状も考えられますので、症状を当てはめても無意味です。
この考え方は、医者も誤解しています。
注意してほしいのは、症状ではなく、分析した結果の4つの証、全てがピッタリと当てはまらないといけません。
どれかだけが当てはまるというのでは当帰芍薬散が合う体質とはいえません。
例えば、血の少ない血虚の証しかあてはまらないのであれば、血虚の証を専門に治す四物湯の方が合っていたりします。
『当てはまる証の違い』で選ぶ漢方薬の種類が変わるのですね。
更に証だけでなく、さっきの虚実、病位などの他の条件も、全部、あてはまって、初めて当帰芍薬散が合う体質となります。
どんな病気に使うのかは考えるだけ無意味です。
一例を出すと、当帰芍薬散は、貧血やしもやけに使うことがありますが、緑内障や慢性関節リウマチに使うこともあります。
当帰芍薬散がどんな病気にでも使えるのではなく、当帰芍薬散が合う体質であれば、そういった病気にも使うことがあるというものなので、あくまで基本は、当帰芍薬散が合う体質かどうかになってきます。
ややこしく細かいですが、だからこそ一人一人の体質に合わせた治療ができるのですね。
当帰芍薬散の効果(中医学)
中医学は日本漢方とは、当帰芍薬散が合う条件も効果の考え方も違ってきます。
【効果】補血活血、建脾利水、調経止痛
【脈侯】軟滑あるいは細
【舌侯】淡紅、舌苔は白、
【適応症】血虚、脾虚湿盛:皮膚につやがない。頭がぼーっとする。頭痛、頭が重い。腰や四肢の冷え。手足のしびれ。月経量が少ない。月経が遅れる。月経痛。食欲不振。疲れやすい。顔や手足のむくみ。下痢。白い織物。オシッコが少ないなど。
中医学は伝統的な漢方に西洋医学の考え方を混ぜて、学校で教えやすいように作り直された教育用の漢方なので、日本漢方よりは、西洋医学的でわかりやすいです。
効果にある【補血活血】は血を増やします。
【建脾利水】は胃腸の不要な水をかき出して胃腸機能を高めます。
【調経止痛】は子宮の痛みを緩和します。
症状を当てはめて選べそうですが、実際は症状を当てはめて選ぶわけではありません。
そもそも症状をあてはめるなら、何かだけ当てはまれば良いのか、全部がピッタリとあてはまらないといけないのかも問題になってきます。
例えば、頭痛と腹痛だけが当てはまったらOKなら、他の漢方薬だって、大概、あてはまりますし、かといって、こちらの症状は原因を調べるための例でしかないので、これが症状の全部ではないし、この症状が全部ピッタリ当てはまる人もそうはいないでしょう。
似たような症状が書いてある漢方薬はいくらでもあります。
日本漢方でも血管拡張がどうたらこうたらとか、自律神経系がどうたらこうたらとか、説明できなくもないのですが、漢方は西洋医学と関係ないので、漢方薬は漢方の理論で理解しないと、細かく体質ごとに漢方薬を選べなくなるのですね。
体質ごとに細かく選べなくなるということは、『治療の精度が悪くなる』ということです。
僕は国際中医師という中医学の医師である認定を受けていますが、中医学の説明はわかりやすくて良い一方で、実際にどうやって体を分析すれば良いのかわからないので、やめました。
(どうやっても、症状をあてはめて自分の思い込みで選んでいる感じしかしない)
実際は治せないため、中医学の治療の考え方は捨てました。
今回は、こういう効果の考え方もあるという意味で紹介しました。
当帰芍薬散の効果(病院)
最後に保険適応のツムラの当帰芍薬散の添付文書から引用したいと思います。
ツムラの当帰芍薬散の効能効果
〈ツムラ23番加味逍遙散添付文書より引用:筋肉が一体に軟弱で、疲労しやすく、腰脚の冷えやすいものの次の諸症:貧血、倦怠感、更年期障害(頭重、頭痛、めまい、肩こり等)、月経不順、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の次の諸症(むくみ、習慣性流産、痔、腹痛)脚気、半身不随、心臓弁膜症。
これが効能効果?
このまま読むと、貧血効果があることになりますね。
これは効能効果ではなく、当帰芍薬散が合うかどうか調べるための特徴的な症状を示しているだけで、当然、「この症状を治す」ものではありません。
貧血を治す薬が半身不随を治すとか、医者は当帰芍薬散の効果を具体的に何だと考えているのでしょうか?
このマニュアルを見て「おかしい」と思わないのが不思議です。
ここから原因を分析して、当帰芍薬散と合うのかを考えないといけないのに、原因の分析を放棄しています。
さっきの中医学と同じで、こんな感じの病名や症状は、そもそも、いくつかでも当てはまればいいのか、全部が当てはまらないといけないのか、何個以上か当てはまればOKなのか、わかりませんよね。
もちろん、症状をあてはめるわけではありません。
似たような症状が書いてある漢方薬は他にもいくらでもありますので、『だったら、どん漢方薬を飲んでもよいのか』という話になってきます。
これでは、その人に合わせて選んでいることになりません。
医者は一人の患者さんに時間をかけないし、漢方の医学理論を知らないからなのか、病名や症状名から選んでも、それがおかしいと思っていません。
当然、こんな低レベルな選び方で治るわけがなく、治るか治らないかは単なる運任せとなります。
漢方薬は合わなければ効果がないし副作用にもなる
漢方薬は、効能効果に書いてある病名や症状だけを見ると似たような病名や症状のものが、いくらでもありますので、実際は、病名や症状だけで合わせるのは不可能です。
そして効果が高いかどうかよりも『自分の体質に合っている確率が高いかどうか?』が重要です。
そして、漢方薬は症状を抑えるものではないので、『漢方薬が合っているかどうか?』を知るためには体質(証)を判断していないと、合っているかどうかさえ確認できないので、東洋医学的な体質を分析、判断しないで、効果があるかどうかは確認できません。
また、あなたの体質と漢方薬が合ってない場合は、副作用となり、病気はよりひどくなる可能性もあります。
医者のように体質が分析できない運任せのような選び方だと、漢方薬の副作用を避けるために病院の漢方薬を飲まないことが1つの治療になるかもしれません。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方処方応用の実際:南山堂
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠⅡⅢ:薬局新聞社刊
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン