桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の医者も知らない本当の効能効果
どんな病気に使うのか?
漢方薬に対する最も大きな誤解は、西洋医学の病名や症状に対して効果がるように説明されていることです。
東洋医学の漢方薬は西洋医学の病名や症状と何の関係もありません。
漢方薬は病的体質である『証』を導き出し、その証に対して漢方薬を処方します。
『証』は意味がわかりにくいですが、漢方的に考えた病気の原因だと考えてもらえればと思います。
漢方薬は、本来は、西洋医学の病名から選ぶことはありませんが、いきなり体質を分析して治りそうな漢方薬を選ぼうとすると膨大な種類の漢方薬の候補が考えられるので、西洋医学の病名から、その病気によく使われる候補になりそうな漢方薬を絞る方法もあることはあります。
(体質を診ることができない漢方医が初心者の頃の稚拙な方法ですが)
ここで1つ決して間違ってはいけないのは、あくまで病名や症状だけで漢方薬は選ばないというこです。
詳しくはこちらの「病院の漢方薬は効かないのか!?(病名漢方とは)」を読んでみてください。
桂枝茯苓丸は主に
不妊症、月経不順、無月経、月経困難症、PMS、生理痛、月経過多、月経過小、子宮筋腫、卵巣嚢腫、骨盤腹膜炎、習慣性流産、妊娠時の下血、冷え性、虫垂炎、尿路結石、乳腺症、前立腺炎、睾丸炎、痔疾、慢性肝炎、腰痛症、副鼻腔炎、ぶどう膜炎、高血圧、動脈硬化、蕁麻疹、進行性角化症、湿疹、肝斑、ニキビ、血栓性静脈炎、静脈瘤、しもやけ、打撲、むちうち、更年期障害、うつなどの精神疾患のある方
などの病気を治すために使われることが考えられます。
桂枝茯苓丸が何の病気に効く薬なのかが気になるところだと思いますが、桂枝茯苓丸が、これらの病気に対して何らかの効果があるという意味ではありません。
こういった病気の人に対して、『体質などの条件が合えば桂枝茯苓丸を使う可能性がある』というだけです。
体質自体が、桂枝茯苓丸の使える条件に合っていなければ使えませんし、治りません。
桂枝茯苓丸は、血をサラサラにする効果で治すとか、毛細血管の血の巡りを巡らせるとか、おかしなウソの説明をする人がいますが漢方薬に病院の薬のような有効成分や直接的な効果は一切ありません。
どんな症状の人に使うのか?
これも誤解している医者や漢方の先生が多いですが、桂枝茯苓丸が、当てはまる条件である『症状』に合わせて選んで飲めば、その症状が治るわけではありません。
また、その症状そのものが当てはまる人が、そのまま桂枝茯苓丸が当てはまるわけでもありません。
くわしくはこちらの「症状別で漢方薬を選ぶのは間違い!?(症状漢方)」を読んでみてください。
全身の症状を材料にして、『証』を診断し、証と合えば桂枝茯苓丸が合うという意味で、単純に『症状があてはまれば、その症状自体に効果がある』と言う意味ではないのです。
あくまで症状は『証』を分析、診断するための材料にすぎません。
そして、漢方では治療や漢方薬にの効果に対する考え方によって、主に3つの派閥に分かれ効能効果の考え方も違ってきます。
厳密には三通りの桂枝茯苓丸の効果の考え方があるということですね。
ツムラ25番 桂枝茯苓丸
専門的な漢方薬の説明の前に、本来の漢方治療としては的外れもいいところですが、保険適用のツムラの桂枝茯苓丸の添付文書から引用したいと思います。
ツムラの桂枝茯苓丸を選ぶ条件となる諸症
ツムラ25番桂枝茯苓丸添付文書より引用:
「子宮並び、その付属器の炎症、子宮内膜炎、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害、頭痛、めまい、のぼせ、肩こり等、冷え症、腹膜炎、打撲症、痔疾患、睾丸炎」
肩こり等となっている「等」って他に何ですか?気になります。
次に効能効果です。
ツムラ25番桂枝茯苓丸添付文書より引用:
「体格はしっかりしていて赤ら顔が多く、腹部は大体充実、下腹部に抵抗があるもの」
これがなぜゆえに桂枝茯苓丸の効能効果なのか?理解に苦しみます。
『様子と症状』が書いてあるだけで、一言も効能効果が書かれていません
効能効果とは「◯◯の有効成分が◯◯の効果で毛細血管の血流を活性化する」などです。
ここに書かれているのは、桂枝茯苓丸が合うとされる体質の条件がモヤッと書かれているだけです。
そもそも、ツムラの漢方薬を処方するときに、医者にお腹を触って調べられた方なんて聞いたことがありません。
保険適用の漢方薬を処方している医者は西洋医学の病名マニュアルで選びます。
医者が使っている病名マニュアルでは
腹膜炎、痔、打撲症、更年期障害、冷え症、月経困難症、子宮内膜炎、子宮付属炎、帯下、睾丸炎
の病名に対して体質も診断せずにお得意のマニュアルベルトコンベア式に処方します。
ツムラ25番桂枝茯苓丸添付文書より引用:
薬効薬理
1.ホルモンに対する作用(ラット)
2.子宮に対する作用(ラット)
3.更年期障害に対する作用(ラット)
この薬効薬理は意味不明です。
先ほどの効能効果といい、保険適応の承認をとる法律上での無理やりな結果でしょうか?
一人一人の体質に合わせた臨床結果を2千年以上、積み重ね、その膨大な人間の治療経験を生かすのが漢方なのに、2千年間の人間の貴重なデータを全部、無視して、わざわざネズミで効果を調べるところには異常ささえ感じます。
これらの項目を知っていれば、医者もこのマニュアルで処方しているだけなので、あなたは保険適応の漢方薬を処方する医者と同等の漢方の知識があることになります。
中医学からみた桂枝茯苓丸を選ぶ条件となる症状
『下腹部の違和感あるいは腫瘤、月経不順、月経不順、月経困難症、足の冷えや静脈のうっ滞、のぼせ、頭痛、肩こりなどの症状を伴うもの』
舌は紫か瘀斑らがみられ、脈には渋か細がみられます。
日本漢方からみた桂枝茯苓丸を選ぶ条件となる症状
「気の上衝の証とみる症状」 :のぼせ、頭痛、頭重、耳鳴り、めまい、肩こり。
「瘀血からの精神症状が関わる証とみる症状」 :足冷え、頭痛、耳鳴り、めまい、動悸、イライラしやすい、不眠。
「瘀血の証とみる症状」 :下腹部の痛み、違和感、月経異常、腹痛、腰痛、下腹部膨満感、下腹部腫瘤、出血傾向、紫斑、肌荒れ、黒色便、経血の塊、口や喉の乾き、顔が赤い、熱感がある。
- 脈は中程度で沈遅、沈渋で緊張があります。
- 舌は紫紅色、乾燥した白苔です。
- 腹力は中程度で下腹部に抵抗と圧痛がみられます。
特にへそから三指斜め下に抵抗、圧痛がみられます。
日本漢方の場合は、これらのいずれかの症状があてはまるとか、いった感じで症状だけをみて選びません。
症状は証を構成する症状として採用するかを考え、『証』の全てがあてはまるゆえに桂枝茯苓丸が合うと考えますので、証の過不足やズレがある場合は、桂枝茯苓丸が合う体質とは考えません。
その場合は『証』を再検討して他の漢方薬が合うかどうかを考え直します。
中医学からみた桂枝茯苓丸の効能効果と禁忌
中医学は2千年前から伝わる伝統的な漢方ではなく70年前くらいに西洋医学を半分混ぜて考えられた漢方で学問として統一し学校で教え広めることを目的に設立された派閥ですので、漢方らしい体質からみるというよりは、漢方とは直接関係なさそうな西洋医学的から考える部分もあるため、効能は西洋医学的な考え方です。
桂枝茯苓丸の効能効果は活血化瘀です。
主に子宮に対する血の巡りを促します。
血管拡張や血腫の分解吸収などによって循環を改善し細胞組織の水を吸収し排泄します。
消炎効果で解熱、鎮痛効果も含まれます。
禁忌は妊婦には使ってはいけません。
桂枝茯苓丸には気や体力を補う補気、補益性がほとんどないため、虚証、気虚証、血虚証の人には桂枝茯苓丸を単独で使ってはいけません。
日本漢方からみた桂枝茯苓丸の効能効果と禁忌
日本漢方は本来の伝統的な漢方を日本人用にアレンジした漢方で西洋医学のような効能効果という考え方はありません。
ある証を持っている人に対して、桂枝茯苓丸の持っている証と合えば体質は調整されて病気や症状が治るという考え方ですので桂枝茯苓丸の「証」が効能効果的と言えます。
桂枝茯苓丸の証は「気の上衝の証」「瘀血の証」「瘀血からの精神症状が関わる証」が条件です。
この証の条件に体力的な部分と漢方薬の強さを合わせる基準である六病位の条件があり、虚実、六病位の条件は陽証で少陽病の実証から虚実間証です。
日本漢方では桂枝茯苓丸は妊婦にも使用します。
ただし、これは日本漢方の場合は、体質に合わせて使いますので、妊婦でなおかつ桂枝茯苓丸が合う証を持っていれば使用するという意味です。
気や体力を補う補気、補益性がほとんどないため、虚証証、気虚証、血虚証の人に使っていけないのは中医学と同じです。
特に血が不足する血虚証(貧血のことではない)や体力がない気虚証、水の巡りが悪い水滞証が中心となっている人は桂枝茯苓丸で誤治壊病が発生しやすく、かえって悪化することもあります。
古方からみた桂枝茯苓丸の効能効果
漢方の原典となる条文です。原文そのままだと意味不明なので、要約されているものを引用しました。
古方も効能効果という考えはなく桂枝茯苓丸をどんな体質に人に使うのがよいかの指示があります。
現在の日本漢方の漢方薬はこの条文の解釈と生薬それぞれの性味(効能効果的なもの)を組み合わせて何千年と検討されてきたルールを使っています。
金匱要略ハンドブックより引用:
第二条 「夫人で平素からしこりのある人が、月経が止まって、三箇月目に下血し、臍部で体動を感じるのは、これはしこりが妊娠を害しているのであって、本当の妊娠ではない。
また月経が止まって六箇月目になって胎動があるのは、妊娠はしているが、三箇月目の胎児である。もし下血するようであれば、それはしこりのために止められていた三箇月間の血である。いづれにしてもしこりがあるためだから桂枝茯苓丸で主治するのがよい」
注意しないといけないのは、原典に「妊娠の人」とか「月経が止まって」とありますが、単純に妊婦さんや月経が止まっている人だけに使うものではありまん。
漢方はこの原文を自分なりに解釈して応用して使用します。
また、お腹のしこりがある人に使うように書かれていますが、実際の現場でお腹にはっきりしこりがある人なんて滅多にいませんが、しこりがなくとも桂枝茯苓丸は効きます。
桂枝茯苓丸を構成している生薬
桂枝、茯苓、牡丹皮、桃仁、芍薬 の5種類の生薬で構成されています。
古方と日本漢方では構成生薬の生薬のどれもが同等ランクの効能効果をもっているとは考えません。
漢方薬全体を「1つのチームとして働く」とみますので、そこにはリーダー役の生薬やリーダー補佐役、調整役など役割が別れていて、それらで1つの処方のバランスをとります。
西洋医学では、連携を想定していないので、やみくもに症状ごとに複数、薬を処方したりしますが、漢方ではそんな無軌道な治療方法はとりません。
どれもが主人公になりそうなアクの強い薬を集めても、複数の薬の連携はむちゃくちゃになりますので「1つのチームとして完成されているか」ということが本来の漢方薬の効能効果を考える上で重要です。
鑑別
鑑別とは漢方で最も重要なことです。
漢方薬は病院の薬のようにあらかじめ決まった効果があるわけではなく、ある病的体質のアンバランスになった過不足を調整します。
体質に対して漢方薬を選びますが、みなさんの体質ははっきりとした違いがあるわけではなく微妙な違いで体質が別れますので、その微妙な違いに対して対応する漢方薬があります。
似たような漢方薬からも候補になるかを吟味して最適な漢方薬を選ぶことも漢方治療で重要なことです。
桃核承気湯、抵当湯、大黄牡丹皮湯、通導散、当帰芍薬散、折衝飲、温経湯、加味逍遙散、薏苡附子敗醤散、治打撲一方などが他に比較して検討すべき漢方薬です。
その他の漢方薬も治療方針が違えば候補処方として考えらます。
まとめ
病名や症状をあてはめて、マニュアル的に漢方薬を選ぶために参考にしようとしていた人は当てが外れたかもしれません。
しかし2千年前からなくならず、その昔は王宮で用いられていた漢方治療がそんな簡単なわけがありません。
同時に根本的に治すために簡単にマニュアル的に漢方薬を選んで治るほど根本治療は甘くありません。
漢方薬の内容は非常に難しいものですが東洋医学理論を踏まえて使用するとすばらしい力を発揮するものだとブログを通してご理解いただけたら幸いです。
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◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠ:薬局新聞社刊
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅡ:薬局新聞社刊
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅢ:薬局新聞社刊