無月経に使う漢方薬
こちら「無月経について(病院では実際にどんな治療なのか?)」でも説明した通り、西洋医学的にみても無月経の原因は単に女性ホルモンの問題ではなくいろいろなことが考えられます。
病院の治療は単なるホルモン補充しかありませんが、漢方薬で治療する場合はホルモン補充が治療方法ではありません。
また、ただ単に漢方薬を飲み続けていれば「いつか、月経が来る」といったような曖昧な治療でもありません。
漢方薬の治療といっても『病院の保険適応の漢方薬の治療』『ネット通販などの市販薬の漢方薬の治療』『体質改善を目的とした漢方薬の治療』など、それぞれ治療の目的や効果が違いますので、それぞれの治療の特徴や効果を説明したいと思います。
病院の保険適応の漢方薬での無月経の治療
自力での自然月経が来ることを目指す場合、全身の状態を整える必要がありますが、保険適応の漢方薬を処方している医者のほとんどは体質を分析することができません。
うちでは体質を分析するために全身の53項目、230箇所のチェック表で体質を分析します。
「うちの問診票」
『体質を改善する』ということは『全身を整えること』なので、当然、全身の状態を知る必要があります。
そういった漢方の体質改善の考えからみると、全身の状態の中で『月経が来ない』という状態は数ある症状の中の1つにしかすぎません。
西洋医学の病名だけで漢方薬を選ぶ理屈なんて漢方の医学理論の中にはありませんので、病名の「無月経(月経が来ない)」という『たった1つの状態』だけで漢方薬をマニュアル的に選んでいるものは『漢方薬は使っているけれども漢方治療ではない、何かよくわからないもの』という漢方ではない新ジャンルになります。
仮に過去の月経周期のことや月経時の状態のことを問診されたとしても、それでも、体質を分析する問診としては『たった3つ』で、全身の状態には触れていませんので、その状態では情報が不足しすぎで漢方薬を選べません。
それでも選ぶとすれば適当に選ぶしかありません。
ツムラのマニュアル漢方
大半の医者は「無月経」で漢方薬を処方する場合、ツムラのマニュアルや勉強会に出席した時に小耳に挟んだ情報を元に漢方薬を選びます。
ツムラの医療用マニュアルを見てみるとマニュアル的には無月経に対する漢方薬はなく「月経痛や月経困難症に使用される漢方薬」となっていました。
ツムラに限らず、保険的適応の漢方薬は大体、下記の処方からマニュアル的に選んでいます。
ツムラのサイト等から引用「月経通や月経困難症で使用される漢方薬」:
1 桃核承気湯:(とうかくじょうきとう) 体力中等度以上で、のぼせて便秘しがちな方の月経困難症、月経痛など
2 桂枝茯苓丸:(けいしぶくりょうがん) 比較的体力があり、のぼせて足冷えなどのある方の月経不順、月経異常など
3 当帰芍薬散:(とうきしゃくやくさん) 体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向がある方の月経異常、月経痛など
4 温経湯:(うんけいとう) 体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわく方の月経不順、月経困難など
5 加味逍遥散:(かみしょうようさん) 体力中等度以下で、のぼせ感があり、精神不安やいらだちのある方の月経不順、月経困難など
漢方薬は全身の状態をみて『あなたの体質にあった最適な漢方薬』を選びますが、「のぼせはなくて、足は冷え、手は冷えないけど、ほてり、唇は冬だけ乾燥して切れて、月経前にはイライラし、月経が3年来てなくて、体力は虚弱なのか、中くらいなのか、体力がある方なのか、よくわからない…」と、こんな感じのよくある状態の人は、どの漢方薬を選べばいいのでしょう?
全ての症状には当てはまらないし、無理やりどれかに当てはめて、当てはまったことにもできます。
体力は最早、何で判断したらいいのかもわからない。スポーツ的な体力?
『いくつかの病名や症状』だけに合わせる程度の漢方の能力しかない中途半端状態で手を出すと、こんな感じでヤケドします。
これを調べている時にツムラの上場企業のコンプライアンスとして素晴らしい2枚舌文言を見つけました。
ツムラのWebサイト「月経困難症・月経痛」より引用:
漢方の診察では、独自の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これも病気の原因を探るために必要な診察です。
全く、おっしゃる通り、漢方薬というのは独自の診断をしますが、その文の最後に…
ツムラのWebサイト「月経困難症・月経痛」より引用:
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
つまり、漢方薬を選ぶためには漢方の専門的な問診が必要だけど、その診察方法はとらない医師もいます。となんとも無責任な説明。
体のことなのにね。
メーカーとしては逃げられるように保険をかけているところがさすがです!!
物事は言い方ですね。
うちの家族やうちの近所の病院、うちに来られた数々の患者さんの病院での漢方薬処方の経験から、この14年間は100%マニュアルで漢方薬を選んでいる医師しか聞いたことがありません。
実際の現場に照らし合わせたら『漢方治療において全ての医師がこの診療方法を行えません!』と書いてもいいくらいだと思うのですが…99%の医者がマニュアルみて、出しているだけなので。
ツムラはこうやって、ちゃっかり逃げてるのに、中には完全に漢方を勘違いした医者が「ネズミの実験結果データ上で当帰芍薬散などはホルモンを活性化させる作用がある」みたいに説明することがありますが、過去にある程度、月経があった無月経の人はホルモン不足で無月経になっている可能性は少ないし、2千年間の人体実験の結果、体質に合わせるという治療方法をとっている漢方にネズミの科学的データを説明されても「で、それが漢方と何か関係があるの?」としか言いようがないですね。
ちなみにネズミは9割は妊娠する動物です。
ネズミを使って不妊症の臨床とかギャク?
ネット通販などの市販薬の漢方薬
ネット通販や市販で購入する場合は「月経痛や月経困難症で使用される漢方薬です」とツムラに書いてある説明と同じですね。
医者もマニュアルを見て漢方薬を選んでいるだけなので、自分で購入する場合も条件的には医者と同じですね。
体質を診断して、その体質に合わせて漢方薬は選びますので、『いくつかの症状をなんとなくか、無理やり当てはめた』ところで数百種類もある漢方薬の中から、自分に合った漢方薬には出会えません。
体質と漢方薬が合っていなければ、何も効果を発揮しないか、余計に体質が悪くなるかです。
保険適応の漢方薬も自分で購入する場合も、体質を分析せずに漢方薬を飲むのであれば、良くなるか、悪くなるかは『単なる運』です。
ちなみに無月経の場合は、月経が、いつ来るかわかりませんので、医者みたいに東洋医学の知識なくマニュアル漢方薬で治療するのは、ほぼ不可能かと思います。
ネット通販や市販薬の漢方薬に限らず、頭痛から始まり、睡眠や胃や便の調子、足のむくみなど、頭の先から足の先まで全身を問診をしないで漢方薬を選んでいる店の場合も、たとえ漢方専門の店と掲げていても、やっていることは医者のやってるマニュアルとそう変わりません。
無月経で使用する漢方薬
漢方は西洋医学の病名で選びません。
本来の漢方では西洋医学の病名も体質を示す一部です。
例えば、無月経という病名は月経が来ないことを示していますので『全身のいろいろな症状の中の一つに無月経という状態がある』と考えます。
よって、候補となる漢方薬は、月経や血の道症と呼ばれる処方グループの全部があなたの無月経を治す候補と考えられます。
無月経で候補となる処方群: 黄連解毒湯、温清飲、三黄瀉心湯、大柴胡湯、柴胡桂枝湯、逍遥散、加味逍遙散、桃核承気湯、防風通聖散、八珍等、人参湯、補中益気湯、八味丸、六味丸、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、苓姜朮甘湯、女神散、五積散、桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、香蘇散、帰脾湯、加味帰脾湯、通導散、大黄牡丹皮湯、抵当湯、桂枝茯苓丸、温経湯、当帰芍薬散、芎帰膠艾湯、芎帰調血飲、四物湯、十全大浦湯、防已黄耆湯、折衝飲、小建中湯、当帰建中湯、大建中湯。
候補となるのは39種類ですが、何かの漢方薬と何かの漢方薬を合わせたりするので、50種類位が候補と考えられる処方でしょうか。
ちなみに候補にする漢方薬が少ないとどうなるか?
漢方は人それぞれの体質に合わせるわけですから、候補となる漢方薬の数が少なくなるほど、自分にピッタリ合う漢方薬がなくなっていき『漢方薬で治る確率が低くなる』ということです。
人の体質は細かくみていけば、みんな同じ訳がないので、5種類から選ぶような簡単なものではありませんし、簡単でテキトーに選べば、いつまで飲んでも漢方薬の効果もテキトーです。
無月経の漢方薬治療のコツ
治療経験上、最初に選んだ漢方薬を飲み続けて、無月経の人の月経を来させるのは難しいと思います。
漢方薬は飲み続けて、しばらくしたら効いてくるという間違ったイメージがあると思いますが、特に無月経の場合は、体質によって体の土台を立て直したり、血を増やすことにフォーカスして、そこを何ヶ月か治療したのちに、血を巡らせていったりと、漢方治療を何段階かのステージに分けて、3、4種類の漢方薬を段階的に使っていく計画で治療した方がうまくいきます。
無月経と病名で一言で片付けると簡単に見えますが、実際は、その人の年齢や無月経の期間、月経があった頃の状態や無月経に至った状況というのは、本当に人それぞれで、今までの相談で体質や状況が同じだった人なんて一人もいません。
『体質』とは詳しくみていけば、同じ無月経でも一人一人違う病気みたいなものです。
最初に治すべきポイントを見出し、治療を段階的に計画し、自発的に自然に月経が起こるように1つずつのパーツを積み上げていく感じですね。
無月経の場合は、「月経が来るか」だけを判断基準にできません。
その結果だけ待ってたら、『ただ、ただ合っているどうかもわからない漢方薬を飲み続ける』ことになります。
常に自発的月経が起こるように治療が進んでいるかを全身のいろいろな変化をみながら、治療していく必要があります。
漢方薬は体質と合っていない漢方薬を飲むこと自体が副作用となります。
体質と漢方薬が合っていなければ、より無月経の状態を強めることもありますので、やはり全身の状態の変化に注意しながら、治療するべきです。
でないと漢方薬を飲まないことが最良の治療になりかねません。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方処方応用の実際:南山堂
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠⅡⅢ:薬局新聞社刊
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン
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