自分の気になる症状だけで漢方薬を選んではいけない理由
一般的に漢方薬に大きな誤解が2つあります。
そしてこの誤解が漢方薬の治療を邪魔しています。
この誤解には2つのことが影響しています。
1つは、もしかして皆さん、無意識かもしれないですが、なんだかんだと漢方薬を病院の薬と同じように考えていて、治ってくれば症状をピタッと抑えてれるものだと勘違いしていること。
もう1つは、自分の気になる症状を直接、抑えてくれると勘違いしていること。
当たり前の話ですが、病院の西洋医学、漢方の東洋医学はどちらも医学という名前がついていますが、実は治療方法や診断方法、病気や症状に対する考え方など、何もかもが違います。
でも、医者も含めて、一般の方は東洋医学を学校で習うわけではないので薬と言えば、自然に病院の薬のことを思い浮かべ、漢方薬も病院の薬のような効果があるかのように誤解して考えてしまいます。
西洋医学の薬と漢方薬の違いは、「漢方薬は自然のものだから体に優しく徐々に効くもの」ではありません。
何もかもが病院の薬と違います。
漢方薬で根本治療を成功させるためには、まず『漢方薬の効果は病院の薬の効果とは全く違うものである』ということを受け入れる必要があります。
哲学的ですが、この考えを受け入れることによって、漢方薬での根本治療の成功率は何倍にも膨れ上がります。
漢方薬に対するよくある勘違い
うちに漢方相談の電話がかかってきた時に、いきなり自分の病気や症状を捲し立てるように話される方がいらっしゃいます。
病院の診察ではお馴染みですよね。
当たり前ですが、自分の病気や症状を治したいのだから、当然、気になっている症状を主張しますよね。
もちろん、漢方治療でも「何の病気か?」「どんな症状に悩まされているのか?」は需要です。
ところが、漢方の場合は、この後にうちの全身の状態や生活状況を知るための問診を書いてもらう必要があります。
病院で出されるような自分の気になっている症状だけを書くような簡単な問診ではなく、全身、250項目にわたって質問しています。
全身の自分の状態を思い起こしたり、確認しながら書いていくので、早い人でも15分。
長い人では書き終えるのに30分、かかった人もいます。
こんな長い問診を書いてもらわないといけませんが、中にはそんなの面倒くさいと再び、病院の時のように自分の気になる症状だけを主張されたりする人もいます。
でも、漢方治療をしたい場合は、必ず全身の状態や生活状況をお聞きしないと治すための漢方薬は選べないのです。
漢方薬には症状を抑える成分も効果もない
病院でなら自分の気になっている症状だけを説明しますよね。
病院に対してはこれでいいのです。
なぜなら、病院の治療の目的は『症状そのものを一時的に抑えること』だから。
色々、検査したり、色々な病名をつけても結局、最終の治療は『症状そのものを一時的に抑えること』
だから、症状さえ聞くことができれば、その症状を抑える薬を選ぶだけでいいのです。
ところが漢方薬は病院の薬のように症状を抑える成分が含まれているわけでもないし、症状を直接、抑える効果もありません。
実は漢方では効果どころか、西洋医学と『症状』に対する考え方自体が違います。
病院と漢方でこんなにも違う症状の考え方
病院の治療は要は、症状を一時的に抑えることを治療だと呼んでいます。
病院の薬は一時的、一定時間しか症状を抑えないし、薬の効果の時間が切れれば症状は見事に再発します(再発というか最初から治ってない?)
先生は症状を抑える薬を出すことのみが目的なので当然、何の症状で悩んでいるのかを聞き出す必要があります。
一方、漢方の世界では症状を抑えることを目的としていません。
例えば、コロナのワクチンはコロナウィルスを直接、抑えたり、無くしたりはしません。
コロナウィルスには一切、関知しないのです。
ではワクチンは何をしているかというと体内でコロナウィルスに似たものを作り出し、それに自分の免疫が反応して自分自身の免疫が強化されるのです。
事前に自分の免疫に戦闘訓練をさせるようなものですね。
漢方の治療はこのワクチンの働きに似ています。
頭痛の原因が暑すぎる夏の影響で体の熱の循環がおかしくなり、『不要な熱のこもり』というケースがあります。
40℃以上の部屋で仕事するようなものですね。
この場合、熱を冷やして体内の不要な熱を取り除くことによって頭痛を治すという治療方法を取ります。
その漢方薬には頭痛の痛みを止める成分は含まれていません。
また、頭痛が雨の前の日や雨の日に悪くなる人の場合は、原因は熱ではなく『水の巡りが悪い』ので、さっきの熱を冷やす漢方薬を飲んだって治りません。
逆もしかりでこの頭痛を治すには水の巡りをよくする漢方薬が必要ですが、熱が原因の頭痛の人が、この漢方薬を飲んだって水の巡りとは何の関係もないので治りません。
どちらも悩んでいる症状は『頭痛』ですが、原因は全然、違っていたりします。
そして、どちらの漢方薬にも痛みを抑える鎮痛効果はありません。
あくまで『原因とそれを調整する漢方薬の目的が合っているから治る』のです。
これが漢方薬と体質が合っているということですね。
逆に病院の薬では人それぞれの原因は関係なく、鎮痛効果のある薬を選べば原因がどうであれ効きます。
ただ、薬の成分で無理やり痛みの発生を抑えているので、何時間かして薬が抜けていくと再発するので根本治療になりません。
漢方薬をちゃんと効かせるために絶対に必要なこと
漢方的に原因を分析するためには、全身の状態と生活の状況を知る必要があります。
頭痛に限らず、咳、耳鳴り、口内炎、下痢などちょっとした症状でもです。
なぜ細かな問診が必要なのか?
それは漢方薬は『症状を直接、抑えるものではない』ということと『同じ症状でも人それぞれ原因が違ってくるから』です。
なので、自分が気になる症状だけを一生懸命、訴えられても、漢方薬は症状を直接、抑えるわけではないので、『あなた自身の原因』を調べるために全身の問診が必ず必要となります。
同じように病院で『医者に症状だけを訴えて出してもらった漢方薬』も意味がありません。
またネットで漢方薬を調べて症状だけを当てはめて選んだ漢方薬や〇〇の効果があるという情報をあてにして選んだ漢方薬も意味がありません。
漢方薬のことを調べていると漢方薬ごとに病名や症状が記載されていますが、あれはその病気や症状に効果があるという意味ではなく、『それをヒントに自分自身の体質を分析してください』ということです。
漢方薬はあくまで『自分だけの体質や原因は何か?』→『それに合う漢方薬は何か?』を考えて選びます。
夏に熱の不要なこもりを冷やして頭痛を治してくれた漢方薬は、冬の寒さが原因で発生した頭痛には驚くほど効きません。
原因も取り巻く環境によってコロコロ変わるので、その都度、体質や原因を分析し、それに見合った漢方薬を選ぶ必要があります。
ですので、うちでは常に様子をお聞きし再検討しながら漢方治療を進めているのです。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方処方応用の実際:南山堂
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠⅡⅢ:薬局新聞社刊
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン
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