病院の漢方薬の選び方はどう間違っているのか(例:大建中湯)
医療関係で働いている患者さんからこんな質問がありました。
「大建中湯ってキツい処方ですか?」
こちらの患者さん、うちで長いこと飲まれていて、毎回、漢方のいろいろなことをお話しするので、『世間で説明されている漢方薬って間違いだらけ!』というのをよくご存知です。
それで、どうも自分の働いているところの高齢の患者さんに医者が『大建中湯』ばっかりを出しているので、「これはおかしいんじゃないか?」と思って質問がありました。
どんな病気に出しているのかと聞くと、癌の人や脳幹出血を起こしている人に出しているのです。
もちろん、漢方薬は病名で選ぶものではないので、もしかしたら、その人の体質を詳しくみると大建中湯が合っているのかもしれませんが、通常は癌や脳幹出血に出すことはまずありません。
今回は、大建中湯とう漢方薬を元にいかに医者の漢方薬の選び方がおかしいのかを説明したいと思います。
ちなみに大建中湯を飲んでいない人も、あくまで大建中湯を例に漢方薬全体の選び方の問題を取り上げていますので、『病院の漢方薬を飲んでいる』と言う人はぜひぜひ、最後まで読んでみてください。
漢方薬は体質に合わせて選ぶ
『漢方薬は体質に合わせて選ぶ』というのが大原則です。
ところが、医者はツムラやクラシエなどの漢方薬メーカーからもらったマニュアルをみて漢方薬を選んでいるだけ。
もう少し漢方を勉強しているつもりのなんちゃって漢方医などは、『どこかの病院の先生が〇〇病に大建中湯を選んで飲んでもらったらよかった』というデータというよりも口コミみたいなものを鵜呑みにしたり、『病院の薬のように調べた臨床データが漢方薬でも通用する』と盛大に勘違いしていたりします。
このあたりの『医者のヘンテコでデタラメな漢方薬の選び方』については、別の記事で紹介しようと思いますが、大半の医者は要は『病名や症状』からマニュアルを参考にして漢方薬を選びます。
例えば「マニュアルのめまいの欄に書いてある苓桂朮甘湯」を選ぶだけみたいな。
どちらにしろ、病名や症状で漢方薬を選ぶのは大間違いです。
なぜ、病名や症状から選ぶのはおかしいのでしょうか?
病名や症状を当てはめて漢方薬は選ばない
漢方薬は2千年前には中国ですでに存在していました。
当たり前ですが、漢方薬の選び方(診断)と漢方薬はすでにセットになっていました。
当然、その時に病名で選んだりしません。
なぜなら、僕らが病院で耳にする西洋医学の病名はその1800年後に登場するからです。
1800年後のまだ存在しない病名に合わせて漢方薬を選べるわけがないですよね。
次に症状に合わせる方法もよくやる間違いです。
よく五苓散は頭痛を治してくれるとか、胃もたれを六君子湯が治してくれるとか勘違いしている人が多いですが、そもそも漢方薬にそれらの症状を治す成分なんて含まれていません。
病院の薬は症状を直接、抑えますが漢方薬は、症状が発生している体の原因を治すことによって『結果的に症状がなくなります』
大建中湯の本当の効果
やっと大建中湯の話ですが、大建中湯は医者のマニュアル漢方では勝手に『腸閉塞の薬』になっています。
冒頭の医者の話では癌や脳幹出血に使っていますが、おそらく、どこかの研修で小耳に挟んだのを鵜呑みにしたのでしょう。
さてさて、ここでなぜ、脳幹出血や癌にあまり使わないのか?
また高齢者に使う場合に気をつけないといけないのかは、大建中湯の中身(構成)をみればわかります。
大建中湯は「乾姜」、「人参」、「山椒」、「膠飴」という4つの生薬で作られています。
大建中湯というのは、これらのレシピでつくられたメニューの名前ですね。
そして、生薬には薬性があります。
これが病院の薬でいったら効果ですね。
乾姜の効果は「大辛」「大熱」。
山椒の効果は「辛」「大熱」これに「有毒」がプラス。
「有毒」とうのは処方する際にかなり気をつけないといけないということです。
鰻丼を食べる時にほんのちょっとパラパラとかける山椒。
あれを大量に食べたら…なんとなく想像つきますよね。」
人参の効果は「温」です。
ここから、医学の素人の方でも、どんな効果か見えてきますね。
そう、ものすごく温めて治す薬。
逆に体質からみたら、『病気の原因が強い強い冷えが原因の人』に合わせる薬なんです。
今、うちで腸閉塞の方の治療をしていますが、その方は大建中湯とは正反対の「主に冷やす効果」の漢方薬で治していて、病院の検査も含めて良くなってきています。
つまり、あくまで『腸閉塞の薬ではなく、冷えが原因の人を治す薬』なのです。
漢方薬の選び間違いが命取り
脳幹出血などの出血は、漢方の治療原則としては、冷やす効果のものを使います。
例えば、子供がのぼせたら鼻血を出すことがありますよね。
でも、ものすごく冷えて、出血することはあまりありません。
(下血や月桂関連の場合は冷えて出血もありますが)
ですので、大体は冷やして治します。
でも、大建中湯はものすごく温める薬。
漢方薬の中でも大熱だけあって、温める効果はかなり強いです。
漢方医学の理論からするとまず、出血関連の病気で使いません。
つぎに癌。
これも種類やステージによりますが、膠飴という生薬の効果がやばいです。
これはもち米、粳米、小麦粉に麦芽を混ぜた甘い飴みたいなものですが、栄養満点、エネルギー満点なので癌を元気にする可能性があります。
『大建中湯を飲んでより癌が元気になる!』みたいな感じです。
どちらにしろ大建中湯の効果はわかりやすく、「腸閉塞の人」に使う薬ではなく、『めっちゃ冷えている人で特に消化器や下腹部系の冷えている人』に使います。
逆にうちで治療している熱系が原因の腸閉塞の人には大建中湯は『毒』になるんですね。
体質レベルと漢方薬の効果の強さレベルを合わせる
漢方薬は効果がどうこうよりも、重要なことがあります。
それはその人の体質が『どれくらいの強さの漢方薬を受け止められるのか』
よくインフルエンザに麻黄湯なんて勝手に決めたマニュアルをみて医者は選んでいますが、麻黄湯は非常に強い薬性(効果)をもっています。
「強い効果の方が効きそうでいいじゃん!」と思われるかもしれませんが、漢方薬は『その時の体質』に合わせないといけません。
麻黄湯はそれなりに体力のある人に使うもので麻黄湯の強さが受け切れない人は、胃がやられて、熱がこもって脱水したみたいな状態になったりします。
ちなみにこの『体力のある人』というのは、スポーツマンとかそんなのではなく、その時点で麻黄湯等が飲めるくらいの体力があるかどうかを体全体から調べるのです。
もちろん、こんなのも医者は全くわかっていません。
だから、平気でインフルエンザに麻黄湯なんてマニュアルが通じると勘違いしています。
漢方ではこの『効果のレベルと体質レベルを合わせる』というのが非常に重要です。
『ちょっと温める』→『温める』→『ものすごく温める』→『毒になるかもしれないくらい温める』なんて段階があるのです。
これに『特に消化器を温める』とか『手足を温める』、『下半身を温める』などの温める場所が変わったり、『冷えに月経が関わっている』『睡眠などの自律神経が関わっている』など、いろいろな要素が付加されて、「温めて治す」だけでも、ものすごく複雑な感じになっていきます。
だから、漢方薬は1つの病名や症状でも40種類〜50種類の漢方薬が候補として存在しているのです。
そもそも、腸閉塞だから大建中湯、脳幹出血だから大建中湯、癌だから大建中湯なんて選び方だったら、医学を全く知らないド素人の人でも簡単に選べますよね。
残念ながら、漢方薬はそんな簡単で単純な世界ではないのですよ。
今回は大建中湯がわかりやすいので、例にしてみましたが、漢方薬は大建中湯に限らず、めまい、頭痛、アトピー、更年期障害などなど、どんな病気やどの種類の漢方薬でも体質と漢方薬の中身を照らし合わせて選びます。
全身の状態(問診)も調べられず、「証(漢方の診断名)」も知らされず、病名か症状だけで漢方薬を処方してもらっている人は、ちょっと考えたほうがいいと思います。
ある意味、そんな医者の処方する漢方薬だったら飲まない方が効果がありますよ。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方処方応用の実際:南山堂
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠⅡⅢ:薬局新聞社刊
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン
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