苓桂朮甘湯は、めまい(目眩・眩暈)の薬ではありません
うちの患者さんが、月経中から、月経前のめまいがひどいとのことで、耳鼻咽喉科へ行きました。
そこでは、下記の処方箋から薬が出されました。
患者さんは、一時だけ効いたみたいで「苓桂朮甘湯が効いたのですかね?」と聞いておられましたが、そんなわけがありません。
なぜなら、うちでは、みなさんの全身の体質を分析していて、うちで何年も治療しているので、この方の体質は熟知しています。
(何年も通っているのは、同じ病気が治らないのではなく、いろいろな病気を治療してきているから)
その体質からすると、苓桂朮甘湯で治るタイプのめまいではありません。
現に結局、一時的に効いた感じがあっただけで、再発したので、再度、うちで相談されています。
今回は、実際の病院の処方を通して、苓桂朮甘湯は、めまいの薬ではないことを解説します。
病院のマニュアル漢方処方では治らない
当然、この病院では、『全身の問診をとって体質を診断する』なんてやっていませんので、単にマニュアルで、『めまいに苓桂朮甘湯』という別に医者でなくともできる、低レベルなマニュアル方法で処方をしたにすぎません。
そもそも、医者はめまいなら、苓桂朮甘湯、五苓散、半夏白朮天麻湯を処方することがマニュアルを見て決めています。
なぜなら、自分の頭で考えて、『体質を判断する能力がない』からです。
それにしても、この苓桂朮甘湯の説明書きは、すごいですね。この説明だと体質をみないで、めまいという症状だけで、苓桂朮甘湯を飲めば治るかのように書いてあります。
これだったら、みんな苓桂朮甘湯を飲んでいれば、めまいだけでなく、ノイローゼも頭痛も治って、万能薬のはずですよね。
ところが、ここに書いてあるように治らないのは、患者さん自身が経験で知っているわけです。
文字って怖いですね。
いくらでも『嘘』がつけます。
ちなみに五苓散も半夏白朮天麻湯は、どれも苓桂朮甘湯にあるような「体内の余分な水分を取り除く効果」のものです。
漢方薬の効果としては、水の巡りを整えることによって、めまい症状を取り除くのですが、でも、医者は、この方のめまいが、問診もとらずに『なぜ、水が原因』だと考えたのでしょうか?
といっても、答えは、『医者は何も考えてない。マニュアルを見て選んだだけ』ということなのですけれど。
重要なのは、『原因が何か』を考えることなのです。
本来の苓桂朮甘湯の選び方
本来、漢方薬は、症状や病名ではなく、体の状態をみて選びます。
めまいも人によって、『水の巡りの問題』だったり、『血の不足の問題』だったり、『水の巡りの問題が腎臓と関係』していたり、『水と気の滞りに血の不足』が関わっていたりと、人それぞれ違います。
ちなみに苓桂朮甘湯も五苓散、半夏白朮天麻湯も主に『水の巡りの問題からのめまい』に使いますが、どれも微妙に合わせる条件に違いがあります。
五苓散は、水の巡りの悪さに加えて、気が肩から上に充満している「気の上衝の証」があり、皮膚表面が冷えて、皮膚表面の代謝が悪くなっている、「表の虚証」、「表の寒証」というものが、含まれます。
苓桂朮甘湯も水の巡りの悪さに加えて、「気の上衝の証」があり、時に血の不足である「血虚の証」を伴う人に合います。
一見、五苓散と苓桂朮甘湯は、同じような感じですが、五苓散の方が薬性が強く、薬性が強いと飲む側の人にも、それ相応の体力が必要となります。
漢方薬は、症状だけで判断するものではないのですね。
それに、どちらも別に「めまい」を治す薬ではなく、水の巡りが悪い状態である『水滞証』を治す薬で、五苓散の方が、水の巡りの悪さは全身に及んでいて、苓桂朮甘湯は、水の巡りの悪さが、肩から上に集中しています。
これも、全身の状態を調べて、自分の治療経験も考え合わさないと、どっちがより最適なのかを選べないわけです。
また、半夏白朮天麻湯は、水の巡りの悪さでも、胃や腸など、消化器系に水が溜まった水が、めまいを起こしていると考えられる原因のタイプに対して選ぶものです。
消化器系の機能も弱っていて、冷えや体力の弱さも持っています。
証としては、「脾胃の虚証」、「胃の水滞証」、「虚証」、「寒証」という4つの原因が重なったタイプですので、同じ水の巡りの悪さでも、五苓散や苓桂朮甘湯とは効果が全然、違ってきます。
ちなみに、半夏白朮天麻湯は、薬性が穏やかなので、体力が弱っている方に合わせます。
逆にこのタイプの人に、五苓散や苓桂朮甘湯を選ぶと、めまいはひどくなります。
分析方法にしても、まさか、患者さんが「胃がむくんでいます」なんてことを言うわけがないので、『全身の症状や状態』、『めまいが起こったきっかけ』や『他に持っている病気』と考えあわせて、分析します。
それが『体質をみる』ということです。
本来、主な原因が、「水の巡りの問題」だと分析しても、それだけでは、まだ、この3つの処方のうち、どれが最適なわからないので、全身の状態から、更に合ってそうな漢方薬を選んでいきます。
めまいの漢方薬を選ぶのに、体質も調べずにマニュアルで苓桂朮甘湯を処方するとか、医者の漢方に対する、かなり低いレベルの考え方は、「患者数をこなすだけのお気楽なマニュアル作業をしているだけ」なんだなと、羨ましく思える時があります。
ただ、そんな、素人でも誰でもできるような低レベルな仕事、そして人を助ける仕事をお金儲けのためだけにやりたくもないですが…
めまいで使う漢方薬
ちなみにめまいという症状だけだと、あらゆる漢方薬が候補として考えられます。
うちでは、下記の漢方薬を候補として考えます。
【めまい、メニエルでよく使用される漢方薬】
桂枝湯、苓桂朮甘湯、五苓散、澤瀉湯、真附湯、半夏瀉心湯、呉茱萸湯、四君子湯、炙甘草湯、麦門冬湯、竹葉石膏湯、半夏厚朴湯、女神散、桂枝加竜骨牡蠣湯、鈎藤散、七物降下湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、桃核承気湯、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、連珠飲、十全大補湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴苓湯、加味逍遙散、逍遥散、柴胡桂枝乾姜湯、三黄瀉心湯、黄連解毒湯、白虎加人参湯、白虎加桂枝湯
では、病院の薬で何が一時的でも効いたのかというと、おそらく、シュランダーです。
シュランダーがめまいに一時的に効いていたのだと考えられます。
だったら、漢方薬はいらないんじゃ…って話ですが、性質の違う病院の薬と漢方薬を同時に出している意味不明な治療は理解に苦しみます。
多分、医者は、漢方薬の根本治療とは、どういうことなのかをじっくり考えたこともないから、病院の薬と漢方薬を併用させるという治療の弊害にしかならないことを平気でできるのでしょう。
実は、症状を無理やり抑えてしまう病院の薬を漢方薬を同時に使うと、漢方薬で根本治療ができなくなるのですね。
そのあたりの話はまたの機会にでも。
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◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
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