男女の性別によって変わる漢方薬(当帰芍薬散や加味逍遙散)
漢方薬には、女性用の薬というものがあります。
もちろん、漢方薬は基本的に、その人の体質に合わせて選ぶので、女性用の薬は絶対に「女性しか飲んではいけない」とか夏の薬はというわけではありません。
その漢方薬の体質条件から考えて「まず男性は当てはまらない」のです。
漢方って結構、そういう体質条件から考えると、この漢方薬は女性用だなとか、夏の薬だな、冬の薬だな、年寄専用の薬だなというものがあります。
今回は「なぜ、女性専用の漢方薬なのか」を説明したいと思います。
効果からではなく体質から漢方薬を考える
まず女性しか飲まない薬は当帰芍薬散、温経湯、芎帰調血飲、加味逍遙散です。
当帰芍薬散は昔から美人になる薬とも言われているくらいで男性が飲むイメージがありません。
僕もかれこれ漢方治療を16年ほどしていますが、当帰芍薬散や温経湯、芎帰調血飲を男性に処方した経験がありません。
ゼロです。
例えば、サプリメントなんかは、「血の巡りをよくします」と効果から考えてオススメしたり、効果から考えて選んだりすることがありますが、漢方薬は、こちらから効果を考えて選ぶものではありません。
相談の段階では、体質がわからないので、どんな漢方薬を選ぶかは患者さんも漢方医もわかりません。
体質を分析していくと、だんだんと選ぶべき漢方薬がみえてきます。
こちらから漢方薬を選ぶのではなく、『患者さんの体質に選ぶべき漢方薬の答えがある』と言った感じ。
ですので、男性の体質を分析していっても、当帰芍薬散とか温経湯、芎帰調血飲、加味逍遙散が候補として出てくることがないのです。
当帰芍薬散の効果から考えると…
一般的に当帰芍薬散は「冷え性とか貧血とか月気不順を治す」なんて、かなりざっくりした効果として認識されていますが、本来の当帰芍薬散の効果は『主に下半身の水の巡りの悪い水滞証を利水し、血の不足を起こしている血虚証を補血し、血の巡りの悪い陰の瘀血証を駆瘀血で巡らせます』
利水とは水の巡りを促すもの。
補血は血を増やしていくものです。
陰の駆瘀血というのは、血が少なく、体が冷えていて血を巡らせる力がない状態の血を巡らせます。
一つずつみていくと、例えば、水の巡りが悪いという人はもちろん、男性でもいらっしゃいます。
貧血のような血が少ない人もいらっしゃいます。
でも陰の瘀血というのは、血が少ない状態と冷えが合わさり、更にそれが月経と関わっているという状態になってきます。
さすがに月経のある男性はいないので、女性用の薬となるのです。
漢方薬の場合は、いくつかの効果があり、それに対応するいくつかの原因がありますが、どれかの原因が当たっていればいいというものではなく、すべての条件が揃わないと、その漢方薬は合いません。
当帰芍薬散の場合は、月経に関わる冷えと血の不足の血の巡りの悪さと血が少ないことと、主に下半身の水の巡りが悪いこと。の条件、全て揃って、初めて『当帰芍薬散で治せる体質』となります。
例えば、月経に関わる冷えと血の不足の血の巡りの悪さと血が少ない状態はあるけれど、水の巡りは悪くなければ、惜しいですが、違う漢方薬を選ばないと治りません。
細かな条件は異なりますが、「月経がある」という条件から芎帰調血飲や温経湯なんかも男性には使わないですね。
漢方薬は選ぶというよりも『数百種類ある漢方薬の中から、人それぞれの形がある体質とを互いにパズルのようにぴったり合わせる』ことが最適な漢方薬を選ぶということになります。
病名や2、3症状があてはまるなんて当て物で選ぶわけではないのです。
ぴったりハマるものが見つかるまで探さないといけません。
加味逍遙散の効果から考えると…
加味逍遙散は、気の変調といって気の滞りから気の調整ができなくなった人の気を発散させてストレスの調整を行います。
これに血の巡りの悪さや加味逍遙散も水の巡りの悪さなどが条件に含まれてきます。
ストレスの調整となると男性も女性も関係ないように思いますが、なんというか、加味逍遙散が治せる精神的なものは、女性的な精神を治すのです。
女性的というと今の時代だと差別的になるかもしれないですが、繊細で細やかで感情的な精神とでもいうのでしょうか。
単に落ち込んだりといった感じとは違い、ちょっと複雑な精神的な状態です。
ただ、加味逍遙散に関しては、全く男性に使わないかというと、そんなことはありません。
僕も16年間の中で4人ほどは使って治したことあります。
ただ、やっぱりなかなか使わないです。
精神的な状態を治療するのにも漢方薬では、30種類ほどありますので、ストレスの種類やストレスを受けた時の感情の種類、他の症状や状態の組み合わせから、他の漢方薬を選んだほうがいいです。
加味逍遙散にもやはり月経関連の血の巡りの問題なども絡んできますので。
病気+月経の状態で考える
漢方薬は病名や症状に合わせるわけではないので、同じ病気の人でも『女性』というか、その病気や症状に『月経』が関わっているかどうかで選ぶ漢方薬がガラっと変わってきます。
例えば、ニキビでも男性のニキビと女性のニキビでは、選ぶ漢方薬は変わります。
また、同じ女性でも思春期や閉経後、それ以外でも選ぶ漢方薬が変わります。
同じニキビでも性別、年代で選ぶ漢方薬も変わってくるのですね。
なので、病院がやっているようなニキビだったら十味敗毒湯とか、冷え性で貧血だったら当帰芍薬散みたいな単純な選び方で治るわけがないのですよ。
人間の体も病気もそんな単純なものではないのですね。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ 漢方概論:創元社
◯ 漢方方意ノート:創元社
◯ 漢方臨床ノート(論考編):創元社
◯ 金匱要略ハンドブック:医道の日本社
◯ 傷寒論ハンドブック:医道の日本社
◯ 素問:たにぐち書店
◯ 漢方治療の方証吟味:創元社
◯ 中医診断学ノート:東洋学術出版社
◯ 図説東洋医学:学研
◯ 中国医学の秘密:講談社
◯ 陰陽五行説:薬業時報社
◯ まんが漢方入門:医道の日本社
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