副鼻腔炎(蓄膿症)の治療で使う漢方薬
副鼻腔炎で使う漢方薬
漢方薬は『証』という病的な体質を診断して、その「証」に合わせて漢方薬を選びますので、正式には副鼻腔炎という西洋医学の病名で漢方薬を選ぶことはありませんが、体質を分析して漢方薬を選ぶとなると、何百種類の漢方薬全部が候補として考えられるので、純粋に体質だけで漢方薬を選ぶには物凄い時間がかかってしまいます。
そこで、副鼻腔炎という病名に対して昔からたくさんの人によく使われてきた漢方薬を候補としてリスト化し、その中の漢方薬と患者さんの体質が合うものを選びます。
ご注意いただきたいのは『副鼻腔炎』という病名と、いくつかの症状が当てはまる漢方薬を選ぶわけではありません。
その方法だと、「なんちゃって漢方!」になっちゃうので、ラッキーで効果があることもなきにしもあらずですが、それは治療とは言えず医療のプロがやることではありません。
【副鼻腔炎でよく使用される漢方薬】
辛夷清肺湯、葛根湯加川芎辛夷、葛根湯、小青竜湯、清上防風湯、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯、十味敗毒湯、排膿散及湯、四逆散、小柴胡湯、大柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、防風通聖散、苓桂朮甘湯、鈎藤散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸、茯苓飲、小半夏加茯苓湯、半夏白朮天麻湯、人参湯、補中益気湯、十全大浦湯、小建中湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯、桂姜棗草黄辛附湯、真附湯、甘草乾姜湯、茯苓四逆湯、四逆加人参湯など
僕はこれらを副鼻腔炎を治す際の漢方薬の候補としてリストアップします。
これ、漢方的には、蓄のう症でも人によってこれだけの原因に分かれるので、その原因別に漢方薬を使い分けます。
このリストアップ後、体質を詳しく分析して、上記の候補処方の中から体質的に合うものを選びます。
次に医者が使っている漢方薬マニュアルから見てみましょう。
【医者が使っているマニュアルにある副鼻腔炎で使う漢方薬】
葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯、荊芥連翹湯
たった3つ。シンプルでいいですね。
漢方の医学理論を全く知らない素人でも選べるやさしいマニュアルです。
この3種類の漢方薬を知っていれば、大げさでなく『あなたも医者と同レベルの漢方の知識』を持っていることになります。
病院のサイトでは「おひとり、おひとりに合った漢方薬を体質に合わせて選びます」みたいなことが書いてありますが、保険適応の漢方薬を処方している病院で病的体質である『証』に合わせて漢方薬を選べる医者なんて聞いたことがないです。
実際は、この3種類の漢方薬の候補から、マニュアル的に選んでいるだけです。
Webサイトって建前(嘘)だらけで怖いですね。
医者の漢方薬の選び方
医者はこの中からか選ぶというよりは、患者さんの状態はそっちのけで、事前に自分が処方すると決めている漢方薬があります。
ちなみに近所の耳鼻咽喉科は辛夷清肺湯が好きなようで、その前はよく荊芥連翹湯を処方していました。
「何、その流行りみたいなの?」
と思われるかもしれませんが、現実のほとんどの医者は、漢方医学的に体質の診断ができないので、例えば『ツムラなどの漢方薬メーカーの営業さんがおすすめする漢方薬』とか、『2ヶ月前のツムラの漢方の勉強会で小耳に挟んだ』みたいな理由で、漢方薬を選んでいます。
だから、流行りすたりがあります。
ひとり、ひとりの体質に合わせて、選ぶはずの漢方薬を『漢方薬を作っているメーカーの都合』や『そのメーカーが売るために仕掛けている勉強会の情報』で選ぶのもある意味すごいです。
これにちょっと勉強した感じになっている医者は、2、3個の症状があてはまるかどうかを問診?して選びます。
ちなみにマニュアル漢方のツムラ以外の一見、しっかりしてそうなクラシエみたいな漢方薬メーカーですら『小青竜湯が合うタイプの症状』とかマニュアル的な説明をしていて「鼻つまりが辛い、くしゃみ、鼻水が治っても鼻つまりが残る、お風呂に入ると良くなる」これらがあてはまると「小青竜湯が合います」という、いいかげんな低レベルなマニュアルを紹介していたりします。
でも現実では「1個目の症状は当てはまるけど、2個目の症状は時々、あるかないかで、3個目の症状はほぼないかな」みたいな感じになり、他の漢方薬の合う条件の症状をみてみると「なんか、それも当てはまりそう…」となるのがオチで、こんな状況は自分で漢方薬を選ぼうとネットを見た人は思い当たるのではないかと思います。
候補になる漢方薬候補は増やすほど難しくなる『30種類〜40種類位の漢方薬の候補』から、その人の体質に合う漢方薬を考えます。
本来は、ある病気に対して何種類かの漢方薬から、あなたのための薬を選ぶみたいな方法はありません。
僕みたいに大体40種類の漢方薬の中から、その人の体質に合う漢方薬を考える人もいるし、10種類位から考える先生もいます。
医者のように3種類から選ぶこともあります。
副鼻腔炎の候補となる処方にどんな漢方薬をリストアップするかは、『その先生の治療の腕と能力次第』ともいえます。
漢方薬関係のWebサイトをみても、副鼻腔炎で使うとされている候補になる漢方薬の種類は、まちまちです。
理想は何百種類とある漢方薬の全種類から、あなたの体質に合う漢方薬を選ぶことです。
例えば、サッカーの日本代表を決めるのに3人から決めるのと何十人から決めるのではどちらがより優秀な選手を選べるでしょうか?
例えば、会社の採用で3人の中から決めるのと何百人から選ぶのでは?
要するに漢方薬は、その症状が書いてあるから治るのではなく、どの漢方薬と合うのか?
体質と漢方薬が合う確率なんです。
当然、3つからしか選ばなければ、それだけ合う確率はグンと減るわけです。
あなたの副鼻腔炎を治してくれる漢方薬は17番目に候補として考えた漢方薬かもしれません。
だとしたら、3つの中からしか選ばないのであれば、永遠に治りませんね。
さすがに3種類になると『自分の病気や体質のことを考えてもらってないことと一緒』です。
しかし、副鼻腔炎の候補となる漢方薬の種類を増やすほど、今度は『あなたにとって最適な漢方薬を選ぶ』ことが難しくなります。
それはなぜか?
症状だけを当てはめて漢方薬を選ぶのは不可能
漢方薬は、その漢方薬を選ぶ条件となっている症状が当てはまるかどうかで選びませんが、仮に症状だけで選ぶとしても、その漢方薬に合う条件の症状は1つの漢方薬につき20位の症状があります。
また、ある漢方薬と他の漢方薬の条件となる症状は似通っていたりします。
例えば、月経不順やPMSを治すための候補となる漢方薬は、どれにも月経不順、月経痛、手足の冷え、肩こり、頭痛、耳鳴りという症状的な条件があったりして、それぞれの漢方薬ごとに更に他の症状が10個位、付け加えられたりします。
医者が3つの候補から選ぶのも、漢方を知らない素人の人がネットだけみて、少ない候補の中から選ぶのも、ある意味、理にかなっています。
なぜなら候補となる漢方薬の数を増やしても『症状だけでみると、どれも当てはまるし、どれも当てはまらないし…』という混乱状態に陥るからです。
それなら、いっそ少ない候補から選べば、体質を判断しなくても、「勘」とか、「鉛筆転がし」でも選ぶことができます。
他のいろいろな漢方薬を検討しなければ『合っている漢方薬を選んだ』という自己満足も得られます。
ちなみに今は「仮に症状だけで選ぶとしたら」という話をしているだけで、実際は、症状や状態などいろいろなことを総合的に判断して体質を診断し、その体質に合わせた漢方薬を候補処方の中から選びます。
適当に漢方薬を選ぶと副作用が待っている
要は勘であろうと適当であろうと漢方は結果論なのでどんな方法でも治ればいいのです。
しかし、漢方薬のリスクは治らないことだけではありません。
体質と合っていなければ『誤治壊病』といって、今の病気がもっとひどくなるか、今とは違う病的体質になるリスクもあります。
漢方薬の副作用に関して、詳しくは「漢方薬の副作用が病院の薬より怖い理由」をお読みください。
更に漢方薬の副作用が怖いところは、病院の薬と違って、徐々に悪くなるので、医者もあなたも漢方薬のせいだとは気づかないこともあることです。
誤治壊病を避け、あとあと選んだ漢方薬が本当に効いたかどうかを確認するためにも、やはり病的体質である『証』を診断し、たくさんの候補となる漢方薬の中から選抜したほうがいいのです。
たくさんの中から選びに選び抜いたエリート漢方薬はやはり効く確率が高いのです。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ ツムラ医療用漢方製剤マニュアル
◯ オースギ医療用漢方製剤マニュアル
◯ 漢方方意辞典:緑書房
◯ 類聚方広義解説:創元社
◯ 勿誤薬室方函:創元社
◯ 漢方診療医典:南山堂
◯ 漢薬の臨床応用:神戸中医学研究会
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ 平成薬証論:メディカルユーコン
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅠ:薬局新聞社刊
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅡ:薬局新聞社刊
◯ 近代漢方薬ハンドブックⅢ:薬局新聞社刊
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